特定障害者に対する贈与税の非課税制度

特定障害者に対する贈与税の非課税制度

制度の背景

この制度の目的は信託制度を活用し特定障害者の生活の安定を図ることである。障害者を扶養している親や親族が亡くなった場合に遺言があれば遺言に基づき障害者は必要な財産を取得することができる。この場合、障害者が自らの財産を管理することができなければ、遺贈を受け若しくは相続した財産が他の者の利益のために費消されるおそれもないとはいえない。障害者が成年後見制度の被後見人になっていれば、裁判所は原則として法定相続分を障害者が相続するように指導し、その後の財産管理も裁判所の後見の下に行われるが、後見人の不祥事等により障害者の財産が減少するおそれもないとはいえない。

遺言がなく、被後見人になっていなければ、遺産分割協議において障害者が他の相続人と同様に遺産を相続するとは限らない。他の相続人が障害者の扶養を行うことを条件に多くの財産を取得し、障害者の取得する財産がほとんどないという分割協議が成立する可能性も否めない。このため特に生活能力に乏しい重度の心身障害者に対しては、生前に財産を贈与して親の死後における生活の安定を確保する方法が有効であるが、贈与された財産を障害者のために安全に運用管理してくれる者がいないとせっかく贈与した財産が他の者の利益のために使用されるおそれは払拭できない。残念なことであるが、障害者に成年後見人が付されている場合でさえその可能性は残されている。

このようなことがないように、贈与した財産を信用力のある第三者に託し、確実、安全にかつ長期間にわたり運用を任せ、特定障害者の生活費や療養費の必要に応じ運用益や元本(贈与した財産)をできるだけ年々安定的に交付してもらう方法を講じることが有効な対処法となる。このような法法として信託という法形式がある。

信託には自益信託と他益信託がある。自益信託とは、委託者Sが財産を受託者Tに信託し受益者としてSを指定する信託である。Sは、委託者であると同時に受益者でもあるので、(所有権は受託者に移転しているが)本来自分の財産である信託財産の収益を受益者として収受する。このように委託者と受益者が同一である信託を自益信託という。自益信託においては、信託財産は元々自分の財産であるから税法上は信託設定による財産の移動を認識しない。

これに対し、受益者と委託者が異なる場合を他益信託という。Sが信託した財産から生ずる収益を他人である受益者Bが受け取るので他益信託というのである。他益信託の実質は贈与である。

相続税法は信託から生ずる利益を享受する受益者が信託財産・債務を有しているものとみなす規定を置き(相法9の2⑥)、適正な対価を負担せずに信託の受益者となる者は、信託の効力が生じたときに、委託者から信託に関する権利の贈与を受けたものとみなしている(相法9の2①)。このため、親や親族又は篤志家が特定障害者を受益者として財産を信託すると、相続税法では信託に関する権利を委託者から受益者である特定障害者に対し贈与したものとみなされる。特定障害者に対する贈与税の非課税規定は、贈与したとみなされる信託に関する権利(受益権)を6,000万円又は3,000万円まで非課税とする規定である。

図表Ⅰ-19 特定障害者扶養信託の要件等

委託者(贈与者)個人
受益者(特別障害者・特定一般障害者)相続税法21条の4第1項に規定する特別障害者又は特定一般障害者
信託財産の範囲(相令4の10)①金銭、②有価証券、③金銭債権、④立木の生立する土地(その立木と共に信託される者に限る。)、⑤継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産、⑥特別障害者の居住の用に供される不動産(①か⑤までに掲げる財産のいずれかの財産と共に信託されるものに限る。)(相令4の10)

















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の11
信託期間平成25年4月1日以後に設定された信託契約では、受益者である特別障害者の死亡の日に終了するとされていること。
信託財産の交付により信託財産がなくなるときにも終了する。
あらかじめ信託期間を定めることはできない。
追加信託特別障害者を受益者とする場合は受益者一人について6,000万円、特定一般障害者を受益者にする場合は3,000万円を限度に追加信託が可能。
解約、取消し、変更信託期間中の解約、取消しは特別の場合を除いてできない。受益者を変更することもできない。
生活費・療養費の交付受益者である特定障害者の生活・療養の必要に応じ、信託財産から金銭を定期的に交付する。
将来必要が生じた時点で交付法法を決めること、交付方法を変更することもできる。
信託財産の管理・運用住宅財産は、信託銀行が安定的な収益確保を目的として指定金銭信託受益権等で運用する。
また、信託財産の運用収益は、信託財産に加えられる。
税金信託財産の運用により生じる収益は、受益者である特定障害者の所得となり所得税が課税される。

(注)特別障害者と特定一般障害者を合わせて特定障害者という。