POINT
負担付贈与とは、受贈者に一定の給付をなすべき債務を負担させることを条件にした贈与契約をいう。
個人から個人に負担付贈与を行った場合は「贈与財産の価額から負担額を控除した価額」が実質的に受贈益となる。この利益に対し贈与税が課税される(相法7)。また、受贈者が負担する債務が贈与者の利益となるものについては、譲渡所得の課税対象となる。所得税法上、贈与も譲渡所得における「譲渡」に含まれるので、負担に相当する金額を対価とした「資産の譲渡」が行われたとみるわけである(所法33、36①)。
負担付贈与における贈与税の課税価格は、贈与された財産が土地、借地権、家屋及び構築物などの不動産である場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額によることになっている(平成元年3月29日平元3直評5外1課共同:負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について(以下、「負担付贈与通達」という。))。
AがBに貸家を贈与すると、貸主Aの地位は受贈者Bに移転し、敷金返還債務は貸主の地位の移転とともに受贈者Bに移転する。このような贈与は負担付贈与であり、貸家の評価額は時価となる。負担付贈与にならないようにと、敷金返還債務相当額の金銭をAからBに贈与しても、法形式上は、不動産+現金の贈与と債務(敷金返還債務)の移転という負担付贈与に該当するが、国税庁は、敷金返還債務に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、一般的に敷金返還債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的な負担はないと認定することができるとしている(国税庁質疑応答事例集:賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係)。
上場株式、気配相場等のある株式を贈与した場合の評価額は、原則として、「贈与当日の終値」、「贈与した当月、前月、前々月の終値の月中平均」の4つのうち最も低いものを適用できるが、負担付贈与又は対価を伴う取引を行った場合は、4つの評価額のうち最も低いものではなく、贈与当日の終値、すなわち課税時期の取引価額が相続税評価額となる(1)(財産評価基本通達169+(2))。
(1) 同族会社の株式(非上場株式)を負担付贈与又は売買する場合、同族会社が所有している上場株式等の評価については、本来の評価方法(課税時期当日終値、前月、前々月、前前々月終値平均のうち最も低い価額)となる。
負担付贈与があった場合においてその負担額が第三者の利益に帰すときは、第三者は負担額に相当する金額を贈与により取得したことになる(相基通9-11、21の2-4、負担付贈与通達)。
現行、所得税法33条に規定する「譲渡」とは、通常、法律行為による所有権の移転と解されているので、相続のように一定の事実(相続)に基づいてその効果(権利、義務の包括的承継)が生ずる場合は「譲渡」に含まれないが、贈与、遺贈による資産の移転は同条に規定する「譲渡」に該当する(2)。
(2) 『 所得税法基本通達逐条解説(平成21年版) 』p.664。
負担付贈与における負担が贈与者(資産の譲渡者)に対し経済的利益をもたらす場合は、その経済的利益を収入金額とする「資産の譲渡」に該当する(所法33、36①)。
借入金で購入した時価100の土地建物甲を個人Aに贈与するが、Aは債務40を負担せよという負担付贈与契約において、甲の取得価額が10である場合、10で取得したものを40で譲渡すると30の譲渡所得が発生する。これは、40という対価を得ているので、所得税法33条《譲渡所得》と同法36条《収入金額》の規定により課税される。法形式上は低額譲渡であるが、税務の世界では、相手が個人であれば対価40部分が譲渡であり、対価のない残りの部分60が贈与となる。
なお、対価を伴わない単純な贈与では、贈与による支配権の移転に伴い贈与資産の値上がり益に対する譲渡所得課税は行われないので、受贈者は贈与者の取得時期と取得価額を引き継ぐ。これに対し、負担付贈与や対価を伴う贈与では、原則として受贈者(実質譲受者)は支払った対価で当該資産を取得したと同視し得るから、実際に支払った金額が当該資産の取得価額となる。ただし、譲渡価額(負担付贈与の負担額)が、時価の2分の1未満であり、かつ、贈与者の取得価額を下回る場合、言い換えれば、譲渡損失が計上される場合は、譲渡者(贈与者)の譲渡損失はなかったものとみなされ、譲渡者(贈与者)の取得時期と取得価額は譲受者(受贈者)に引き継がれる(所法60①、所基通60-1)。