相続税の税額控除
よく、「配偶者が相続する遺産の額が1億6千万円か法定相続分のうち多い方までの額以下ならば、取得した遺産に相続税が課税されない」という説明を受けると思いますが、その仕組み(税額控除)を正しく理解している人は少ないのです。
ここで、配偶者の税額軽減特例(税額控除)をはじめ、相続税の納税額を算出するために必要な税額控除の概要をご説明します。
基礎控除
法定相続人がいなくても3,000万円の基礎控除は使えます
相続人が不存在で、亡くなるまで被相続人の身の回りの世話をしていた方が特別縁故者として家裁に認定され、財産分与が行われた場合でも、3,000万円の基礎控除は適用できます。
基礎控除の計算は次の算式のとおりです。
3000万円+(600万円×法定相続人の人数)
贈与税額控除
相続又は遺贈で財産を取得した人がポイント
相続又は遺贈により財産を取得した人は、相続開始前3年以内に行われた贈与について(贈与税の基礎控除以下でも)、相続財産に加算して申告します。その際、過去に行った贈与税の申告で納付済みの贈与税額を相続税額から控除します。(マイナスになっても還付は受けられません。)
贈与税税額控除を使える人は「相続開始前3年以内に贈与財産を受け取った人」ではありません。「相続又は遺贈により財産を取得した人」が開始前3年以内の贈与額を相続財産に加算して計算することに注意してください。
配偶者の税額軽減額
勘違いしている人が多いのですが
配偶者の税額の軽減とは、亡くなられた方の配偶者が遺産分割や遺贈によって取得したことが確定した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額まではかからないように税額控除される制度です。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
- 相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
- 「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して相続税の申告書又は更正の請求書を提出し、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。
- 相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受け、やむを得ない事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。
(注)この制度の対象となる財産には、仮装又は隠蔽されていた財産は含まれません。
良くある勘違い
配偶者と子供一人、合計相続人二人の場合、基礎控除が4,200万円あるから、遺産が2億200万円(1億6,000万円+4,200万円)の場合、配偶者が全遺産を相続すると相続税は0円になるというのは誤りです。
2億200万円の遺産を二人の相続人が取得すると、相続税の総額(配偶者の税額軽減前の税額)は3,400万円です。2億200万円の遺産の全てを配偶者が相続した場合、税金は0円にはなりません。配偶者の税額軽減額は全課税財産額に占める配偶者の軽減対象財産額(この場合は1億6千万円)の税額割合2,693万円です。
3,400万円×1億6,000万円/2億200万円=2,693万円
この金額が軽減される金額です。
この結果、全財産を取得した配偶者の納付額は707万円です。
未成年者の税額控除
無制限納税義務者に限定
未成年者控除が受けられるのは、居住、非居住に関わらず、相続又は遺贈により財産を取得した無制限納税義務者に該当する未成年者です。
- 未成年者控除の額は、未成年者が満20歳になるまでの年数1年につき10万円で計算した額です。年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。
(例)未成年者の年齢が13歳7か月の場合は、7か月を切り捨て13歳で計算します。この結果、20歳までの年数は7年になり、未成年者控除額は、10万円×7年で70万円です。
- 未成年者控除額が、その未成年者本人の相続税額より大きいため控除額の全額が引き切れないことがあります。この場合は、引き切れない控除額は他の相続人から引けますか?
- 引き切れない部分の金額を未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。
(注)扶養義務者とは、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の者をいいます。
障害者の税額控除
無制限納税義務者に限定
障害者の税額控除を受けられるのは、次の人です。
- 被相続人の相続人であり(相続放棄をした場合にはその放棄がなかったものとした場合の相続人)、居住、非居住に関わらず、相続又は遺贈により財産を取得した時に無制限納税義務者に該当する障害者(相続開始時点で障害者)である方。
- 障害者控除の額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年(1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。)につき10万円、特別障害者の場合は1年につき20万円で計算した額です。
- 障害者控除額が、その障害者本人の相続税額より大きいため控除額の全額が引き切れないときは引き切れない控除額を他の相続人から控除できますか。
- 引き切れない部分の金額を障害者の扶養義務者の相続税額から差し引けます。
相次相続控除
適用要件
- 被相続人の相続人であること
- 相続開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得し相続税を納税していること
相次相続控除が適用できるのは相続人に限定されています。相続の放棄をしたり相続権を失ったりした人が遺贈や死亡保険の受取人である場合、相次相続控除は適用できません。
非課税財産
相続人が受け取った死亡保険金と死亡退職金
死亡保険金や死亡退職金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が次の算式によって計算した非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります。
- 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
*相続人以外の人が取得した死亡保険金や死亡退職金には非課税の適用はありません。
小規模宅地等の課税価格の特例
特定の親族が取得することが必要
被相続人の自宅の敷地は、特定の親族が相続又は遺贈により取得すると330㎡まで課税価格が80%減額されます。
特定の親族とは次のとおりです。
- 配偶者
配偶者はオールマイティです。被相続人と不仲になり別居していた配偶者でも特例の適用は可能です。居住要件や所有継続要件もありません。 - 同居の親族
自宅の小規模宅地の特例の特徴は、適用対象者が被相続人の「同居の親族」であれば足りる点です。親族ですから相続人に限りません。ただ、相続人以外の親族が取得するためには遺言が必要です。法定申告期限まで同居していた家に住み続けることと同じく法定申告期限までに所有を継続することが必要です。 - 家なき子
配偶者や同居の法定相続人(この場合は法定相続人です。)がいない場合に初めて適用対象者として登場できます。被相続人の親族で、相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者の所有している家に住んでいなかった人です。いいかえれば居住している家が借家である人です。法定相続人以外の親族は遺言があることが必要です。
自宅の小規模宅地特例の注意点と例外
自宅の相続税評価額が5,000万円だった場合、配偶者がこれを相続し、小規模宅地の特例を適用すると課税価格は1,000万円ですみます。(▲80%減額)よく評価額が下がるという表現をする人がいますが、誤りです。配偶者や同居の親族が取得したからといって敷地の評価額が下がることはありません。相続税の税率をかける「課税価格」を80%減額するのです。
自宅の小規模宅地の特例の対象となる土地は、被相続人が相続開始直前に自宅として使用していた家の敷地です。被相続人が数年前に老人ホームに移転している場合は、次の二つの要件を備えると適用可能です。
- 被相続人が要介護の状態になって老人ホームで亡くなったこと
- 空き家になった自宅に他の人(以前から同居していた人を除く)が住んだり、人に貸したり、事業用に転用したりしていないこと
この場合も、適用対象者は配偶者や同居の親族がいると配偶者や同居の親族が取得しないと適用できません。配偶者か同居の法定相続人がいなければ、家なき子が取得すると適用できます。
- 被相続人が老人ホームに入っても、従前、同居していた親族が相続開始時点まで住み続けていれば、生計同一の親族の居住用に該当し、80%減額特例の適用要件を充します。
現行相続税法は、この特例のように誰がどの財産を取得するかにより税額が大幅に変わることがあります。遺産分割協議をまとめる前に、相続登記を行う前にベテランの税理士の意見を聞く機会を設けていただくことが重要です。