受遺者に対する課税

受遺者に対する課税

(1)個人(自然人)

遺贈により財産を取得した個人(自然人)は相続税の納税義務者となる(相法1の3)。

受遺者が遺贈を受けた財産につき我が国の相続税の納税義務を負うかは大別して①受遺者が我が国に住所を有するか、②住所を有しない場合は財産の所在地が相続税法の施行地内か、③相続時精算課税制度の適用を受けているかにより判定する。ただし、この方法だと海外に所在する財産の遺贈を受けたときには納税義務が生じないこととなり、国際化が進展している現代においては、著しく課税の公平を欠くこととなる。このため平成12年に租税特別措置法において日本に居住していないが受遺財産の所在地にかかわらず納税義務を負う規定が作られ、平成15年の改正により相続税法に組み込まれた。これは、受遺者が日本国籍を有し、かつ、遺贈者又は受遺者のいずれかが遺贈を受けた日(相続開始日)前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していれば、遺贈により取得した財産の所在地を問わず取得財産の全てについて納税義務を生ずるという規定である(全世界課税)。日本国内に住んではいないが取得した全ての財産につき無制限に納税義務を負うという意味で、非居住無制限納税義務者という(相法1の3二、2①)。さらに平成25年度の税制改正では非居住無制限納税義務者に、日本国内に住所を有していない個人で日本国籍を有しない者が、日本国内に住所を有する者から遺贈により取得した場合が加えられた(この改正は平成25年4月1日以後の遺贈により取得する国外財産に係る贈与税について適用される。)。非居住無制限納税義務者と居住無制限納税義務者を総じて無制限納税義務者という。(その後、日本に短期間居住する外国人の納税義務については緩和するといった見直しが行われ、平成30年、令和3年改正により、一時居住被相続人(改正後:外国人非居住者)の居住要件が撤廃された。これにより、10年を超えて日本で就業する者からの相続により財産を取得した場合であっても、国外財産にまで課税が及ばなくなった。)

法施行地以外に居住し、法施行地内の財産を取得するときに限り相続税の納税義務者となる制限納税義務者については、財産の所在地遺憾が相続税の課税範囲を決定する要因となるから相続税法は10条に詳細な規定を置いている。

遺贈による財産の取得の時期は、遺贈が遺言者の死亡の時にその効力を生ずる(民法985①)とされていることから、遺贈者の死亡の時(失踪の宣告を相続開始原因とする相続については、民法31条に規定する期間満了の時又は危難の去りたる時)とされている(相基通1の3・1の4共-8)。遺贈者の死亡の時は、自然的死亡時と失踪宣告に基づく擬制死亡時とがある。自然死亡時は、医学的に呼吸が停止した瞬間であり、擬制死亡時は、普通失踪の場合は民法30条1項の期間満了時、危難失踪の場合は危難の去りたる時である。停止条件付の遺贈でその条件が遺贈者の死亡後に成就するものについてはその条件が成就したときとなる(相基通1の3・1の4共-9)。

なお、相続時精算課税の適用を受ける財産で相続税法21条の16第1項の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされたものに係る相続税の納税義務の成立の時期は、当該相続時精算課税に係る特定贈与者の死亡の時である。

受遺者が遺贈者の一親等の血族(その代襲相続人を含む。)又は配偶者以外の物である場合に負担する相続税は通常の相続税額の二割増しとされる(相法18②)。

平成15年改正前は二割加算について受遺財産の70%を限度とする規定が設けられていたが、同年の改正により相続税の最高税率が50%に引き下げられたことに伴い上限規制は廃止された(平成15年1月1日以後適用。)。

相次相続控除の適用を受けられる者は、相続又は遺贈により財産を取得した相続人に限られ相続人以外の者には適用されない。相続人とは民法に規定する相続人をいうから、遺贈について相次相続控除を受けるためには、第一次相続及び第二次相続とも受遺者は相続人でなければならない(相法20①)。受遺者が相続を放棄した者又は相続権を失った者である場合は相続人ではないから適用されない(相基通20-1)。

個人が財産を遺贈する相手は個人とは限らず、次のようなものが考えられる。

  1. 人格なき社団・財団
  2. 持分の定めのない法人
  3. 営利法人

このうち、人格なき社団・財団は無条件に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66①④)。持分の定めのない法人は、特定の場合に相続税の納税義務者となる(相法66①③)。株式会社などの営利法人は、遺贈による受贈益に対し法人税が課税されるので相続税の納税義務者となることはないが、法人が遺贈を受けることにより、法人の出資者(株主等)の出資持分の価値が増加する場合は、遺贈者から法人の出資者への遺贈となる(相法9)。なお、個人が持分の定めのない法人に対し財産を遺贈することに関連して、当該法人から特別の利益を受ける特定の範囲の者に対し特別の利益に相当する金額の遺贈を受けたとみなす規定(特別の法人から受ける利益に対する課税)がある(相法65)。

(2)代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団

代表者又は管理者の定めのある人格のない社団・財団は、所得税法や法人税法では、法人とみなされ、その収益には法人税が課されるが、全ての収益に対し課税されるわけではない。

人格のない社団や財団(例:同窓会、町内会、PTA)などは、会費収入により運営されることが多く、会費収入に税金が課税されると運営が困難になる。法人税法は、代表者又は管理者の定めのある人格のない社団・財団の収益のうち、①34種類に限定した「収益事業」を行う場合、②法人課税信託の引受けを行う場合、③退職年金業務等を行う場合に限定して法人税の納税義務を課している(法法4①ただし書き)。受贈益に対しては法人税が課されない(所法4、法法7)。

収益事業とは

次の34種類の事業で、継続して事業場を設けて営まれているものをいう(法法2⑬、法令5①)。

1.物品販売業、2.不動産販売業、3.金融貸付業、4.物品貸付業、5.不動産賃貸業、6.製造業、7.通信業、8.運送業、9.倉庫業、10.請負業、11.印刷業、12.出版業、13.写真業、14.席貸業、15.旅館業、16.料理店業その他の飲食店業、17.周旋業、18.代理業、19.仲立業、20.問屋業、21.鉱業、22.土石採取業、23.浴場業、24.理容業、25.美容業、26.興行業、27.遊戯所業、28.遊覧所業、29.医療保険業、30.技芸教授又は学力の教授若しくは公開模擬学力試験を行う事業、31.駐車場業、32.信用保証業、33.無体財産権の提供等を行う事業、34.労働者派遣業。

上記に掲げる事業であっても、それが公益社団法人・財団法人が行う公益目的事業に該当するものである場合、公益法人等が行う事業のうち身体障害者、生活扶助者、知的障害者、精神障害者、老人、寡婦などのためのもの等所定の要件を満たすものは、収益事業から除外されている(法令5②)。

代表者又は管理者の定めのある人格のない社団や財団に対し、資産家が多額の資産を遺贈しても、上述のように法人税は課税されない。子供が実質的に支配する人格のない社団・財団に親が財産を遺贈しても法人税は無税で済んでしまう。このような仕組みを利用した租税回避が行われることを防止するため、相続税法は、個人が代表者又は管理者の定めのある人格なき社団や財団に財産を遺贈した場合には、人格なき社団や財団を無条件に個人とみなして相続税の納税義務者としている(相法66①④)。

現行法令では、個人から贈与を受けた利益(受贈益)に対し法人税が課税されることはないが、もし、贈与を受けた財産に対し法人税が課税されることがあれば、二重課税排除のために、相続税法施行令の定めるところにより、人格なき社団や財団に課されるべき法人税及び法人事業税等の額に相当する額は贈与税から控除する(相法66⑤)(1)

(1)平成20年12月1日前に行われた贈与については、人格のない社団・財団の各事業年度の所得の計算上益金の額に算入されているときは、贈与税は課税されない(個人とみなされない)こととされていた。改正の趣旨は、贈与税の最高税率50%と法人税の最高税率40%の差を利用した租税回避の防止である。

人格なき社団・財団を設立するために財産の提供があった場合についても同様の扱いとなる(相法66②)。

図表Ⅱ-28 人格なき社団・財団と相続税

人格なき社団・財団と相続税
人格なき社団・財団と相続税

■「代表者又は管理者の定めのある」人格なき社団・財団とは

法人でない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる(民訴29)。相続税法の規定は訴訟当事者能力のある人格なき社団・財団を個人とみなしているわけである。

人格なき社団についての判例は、「団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」としている(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)。「権利能力なき財団」については、「個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有していること」を必要とするとしている(最判昭和44年11月4日民集23巻11号1951頁)。

(3)持分の定めのない法人

持分の定めのない法人とは、一般社団法人、一般財団法人、持分の定めのない医療法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人など残余財産の分配請求権や払戻請求権がない法人や定款等に社員等が残余財産の分配請求権や払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人をいう。法人税法2条6号に規定する公益法人等も持分の定めのない法人に含まれる。

■持分の定めのない法人とは

  1. 定款、寄付行為若しくは規則(これらに準ずるものを含む。以下(2)において「定款等」という。)又は法令の定めにより、当該法人の社員、構成員(当該法人へ出資している者に限る。以下(2)において「社員等」という。)が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができない法人
  2. 定款等に、社員等が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人

(平成20年7月25日付 資産課税課情報 第14号 13)

①持分の定めのない法人が個人から遺贈を受けたとき

持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を有する者がないものを含む。以下同じ。)は、特定の場合に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66④⑥)。特定の場合とは、遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときをいう(相法66④⑥、相令33③)。

図表Ⅱ-29 持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となる場合

持分の定めのない法人が想像税の納税義務者となる場合
持分の定めのない法人が想像税の納税義務者となる場合

持分の定めのない法人を設立するために財産の提供があった場合についても同様の扱いとなる(相法66④)。

(注)相続税法で、持分の定めのない法人が個人とみなされるときは、相続税が課税されるが、(相続税法で個人とみなされたときも)法人格を有することに変わりはないので、遺贈資産は時価で譲渡されたものとみなされる(所法59①)。含み益のある資産ならば譲渡所得課税の対象となる(参照:個人から法人に贈与する場合)。

不当に減少する結果となると認められるときとは、持分の定めのない法人に対する財産の贈与又は遺贈があった場合に、贈与又は遺贈の時において、法人の役員等の構成・機能、収入・支出の経理、財産の管理状況、解散の時の残余財産の帰属、その他の定款・寄付行為の定め等からみて、贈与者・遺贈者又はその同族関係者が提供又は贈与された財産を私的に支配し、その使用、収益を事実上享受し、あるいはその財産が最終的にこれらの者に帰属するような状況にあるときをいう。財産の贈与や遺贈がない場合に比べ、同族関係者らの相続税又は贈与税の負担が減少する結果となるといい得れば足りる。結果的にいかなる者にどれほどの贈与税等の負担の減少をきたしたかを確定する必要はない(同旨:昭和49.9.30東京地裁、税資76号906頁)。

相続税法施行令33条は、不当に減少する結果となると認められるときについて「適正要件」を欠く場合と定めている。同施行令に定める適正要件を要約すると次のとおりである。

イ 運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと

ロ 贈与者、設立者、役員等に特別の利益を与えないこと

ハ 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること

ニ 法令違反、公益に反する事実がないこと

上述の(イ)運営組織が適正であること及び(ロ)特別の利益を与えないことの二点につき、通達は詳細な規定を置いている(個別通達:昭和39年6月9日付直審(資)24、直資77、平成20年7月8日付課資2-8改正「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び公益法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」(以下、「昭39直審(資)24」という))。

図表Ⅱ-30 持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるとき

原則:法人税の納税義務者


■法令:遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき(相法66④⑥)

適正要件


●施行令:不当に減少する結果となるときとは、次の適正要件から外れた運営組織や事業運用がなされた場合をいう(相令33③)

  1. 運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと
  2. 遺贈者、設立者、役員等に特別の利益を与えないこと
  3. 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること
  4. 法令違反、公益に反する事実がないこと

★通達:運営組織が適正であることとは、遺贈のあった時点だけでなく将来においても運営組織が適正でなければ組織が私的に支配され、贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となるとの観点から、①定款、寄付行為、規則などに理事及び監事の定数、理事会及び社員総会の定足数など一定の事項が定められていること(注)、②事業運営及び役員等の選任等が定款等に基づき適正に行われていること及び③事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していることであり、特別の利益を与えないこととは、遺贈等をした者、法人の設立者、社員若しくは役員等及びこれらの親族、特殊関係者、同族法人等一定の範囲の者が法人所有財産の私的利用、余裕金の運用、有利な条件での金銭の貸付、無償又は低廉譲渡などをすることとされている(昭39直審(資)24、資産課税課情報第14号)。

(注)通達は持分の定めのない法人を次の三類型に分け、必要的定款記載事項を詳細に定めている。

  1. 一般社団法人
  2. 一般財団法人
  3. 学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人その他の持分の定めのない法人

②一般の篤志家からの遺贈があった場合の判定について

財産の遺贈等(寄付)の中には、財産の遺贈等を受ける法人の運営と全く関係のない篤志家からなされるものもあり、このような場合には、その法人からその贈与をした篤志家に特別の利益が与えられることはおよそ考えられない。

そこで、次の要件を二つとも具備している場合は、適正要件の(イ)「運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと」を満たさないときであっても、(ロ)から(ニ)までの要件を満たしているときは、「相続税又は贈与税の負担が不当に減少すると結果となると認められるとき」に該当しないものとして取り扱うこととされている(昭39直審(資)24、平成20年7月5日:資産課税課情報14号)。

  • 遺贈者が遺贈を受けた法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの及びこれらの者の親族と遺贈者間には親族関係等の特殊関係がない場合であり、
  • これらの者が、法人の財産の運用及び事業の運営に関して私的に支配している事実がなく、将来も私的に支配する可能性がないと認められる場合

③公益事業用財産の相続税の非課税規定の不適用について

持分の定めのない法人が故人とみなされるときとは、事業運営が特定の者や一族の支配に服し、特別関係者に特別の利益を与える場合に該当している場合である。従って、同様の欠格事由を定める公益事業用財産の相続税の非課税規定の適用要件に該当する余地はない(相法12①3、昭39直審(資)24)。

④判定の時期等

相続税法66条4項の規定を適用すべきかどうかの判定は、遺贈等の時を基準としてその後に生じた事実関係をも勘案して行うのであるが、遺贈等により財産を取得した法人が、財産を取得した時には相続税法施行令33条3項《人格のない社団又は財団等に課される贈与税等の額の計算の方法等》各号に掲げる要件を満たしていない場合においても、当該財産に係る相続税の申告書の提出期限又は更正若しくは決定の時までに、当該法人の組織、定款、寄付行為又は規則を変更すること等により同項各号に掲げる要件を満たすこととなったときは、当該遺贈等については相続税法66条4項の規定を適用しないこととして取り扱われる(昭39直審(資)24「17」)。

図表Ⅱ-31 法人に対する遺贈に係る課税関係整理表

遺贈者受遺者課税形態
個人営利法人法人税の納税義務者(全所得課税)
代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団無条件に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66①)
公益を目的とする事業を行う者ならば、受遺財産が非課税財産となる場合あり(相法12①三、相令2)
持分の定めのない法人法人税の納税義務者であるが、収益事業に限り課税(法法7)
相続税の不当減少となる場合に限り、個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66④)
個人とみなされ相続税の納税義務者となったときに公益目的事業用財産非課税規定(相法12①三、相令2)の適用余地はない