大学が現物資産の寄附を受けた場合に必要な税務上の対応
【質問】
大学の卒業生の方が亡くなり、その遺族の方から遺産のうち現物資産(不動産や株式・公社債など)を寄附したい旨の相談が大学に対してありました。この場合に相続税やみなし譲渡所得税が課税されるのか、また大学側で必要な税務上の対応について教えてください。
【結論】
大学において寄附者(遺族)宛に寄附の証明書を発行することで、寄附財産に係る相続税が非課税となる特例の適用を受けることができます。
※ その他、所得税の寄附金控除の適用も受けることができます。
なお、寄付の証明書は相続税の場合と所得税の場合とで記載項目等が異なるほか、その証明書の発行が相続税の申告期限までに間に合わないと相続税の非課税の特例の適用を受けることができませんので、大学側においてはまずは亡くなった方の相続開始日を確認する必要があります。
値上り益のある現物資産を法人に寄附すると、みなし譲渡所得税の課税の対象となりますので、寄附財産の時価についても早期に確認し、その金額が取得費を下回っていれば、遺族(相続人)及び大学共に税務上の手続は必要ありません。
また、値上りとなっていた場合であっても、一定の要件を満たす場合には、寄附日から4か月以内に所轄税務署を通じて申請を行うことにより、みなし譲渡所得税が非課税となる特例の適用を受けることができますので、大学側においても申請に必要な書類等の準備が必要となります。
【説明】
- 相続税について
- 亡くなった方の遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万)を超える場合は、遺族が寄附した財産も含めて相続税の課税対象となるのが原則ですが、遺族が遺産を大学(国立大学法人、公立大学法人、学校法人)に寄附した場合は、その寄附財産分の相続税を非課税とする特例(租税特別措置法第70条)が設けられています。
(参考)国税庁タックスアンサー「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」 - この特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限まで(原則として亡くなってから10か月以内)に、①遺産の寄附を完了させた上で、②大学が発行する証明書を添付した相続税申告書を所轄税務署に提出する必要があります。
- また、この特例は、相続税の申告書の提出が期限後となった場合や、提出期限までに申告書は提出したものの証明書の添付が間に合わなかった場合には適用できません。
(注)この特例に関しては、証明書の発行や申告書の提出が遅れたことに対する救済措置は一切設けられていません。 - このため、よくあるトラブル事例として、大学側における寄附の受入れや証明書の発行が申告期限までに間に合わず、特例の適用を受けられなかった事態が生じていますので、大学においてはまずは遺族の方に相続開始日を確認し、寄附の受入手続やその後の証明書の発行が申告期限に間に合いそうか検討した上で、寄附を受け入れる場合には申告期限に遅れることのないよう、早めの対応をしていただく必要があります。
- なお、相続財産の寄附に関しては、寄附者(遺族)に係る所得税の寄附金控除の適用を受けることもできますが、大学が発行する証明書に関しては、相続税と所得税とで記載項目等が異なりますので、下記リンク先を参照してください。
(参考)相続税の場合:よくあるご質問「大学が現金預金の寄附遺贈を受けた場合の受領証明書の様式及び記載事項について」
所得税の場合:国税庁タックスアンサー「No.1266 公益社団法人等に寄附をしたとき」 - また、相続税の非課税の特例の場合は、寄附を受けた財産を「寄附日から2年以内」に公益事業の用に供する必要がありますので、大学における活用方法についても検討しておく必要があります。
- 亡くなった方の遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万)を超える場合は、遺族が寄附した財産も含めて相続税の課税対象となるのが原則ですが、遺族が遺産を大学(国立大学法人、公立大学法人、学校法人)に寄附した場合は、その寄附財産分の相続税を非課税とする特例(租税特別措置法第70条)が設けられています。
- みなし譲渡所得税について
- 法人に現物資産(不動産や株式・公社債など)を寄附した場合には、寄附者(遺族)が寄附した日の「時価」で譲渡したものとして、「みなし譲渡所得税」の対象となります(所得税法第59条)
- この「譲渡所得税」は、いわゆる「値上り益」に対して課税されることから、寄附した日における寄附財産の「時価」を把握して値上りしているか否かを確認する必要があります。
- 寄附財産の評価方法については、国税庁ホームページで確認することができます。
(参考)主な現物資産の評価方法(国税庁「タックスアンサー」)
・不動産の評価
・上場株式の評価
・公社債の評価 - 寄附をした現物資産が値上りしていた場合であっても、一定の要件を満たしている場合には、原則として寄附日から4か月以内に所轄税務署を通じて申請を行うことにより、みなし譲渡所得税が非課税となる特例の適用を受けることができますが、その申請を行うためには、大学側から添付書類の交付等が必要となります。
適用要件や手続等の詳細については、国税庁ホームページをご覧ください。
(参考)国税庁「公益法人等に財産を寄附した場合における 譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」 - 寄附をした現物資産が値下がりしていた場合には、みなし譲渡所得税についての申告手続は特に不要です。