一読、難解、二読、難解、三四がなくて五読、誤解
税法は難儀なもの
信託型ストックオプションの課税関係
最近、世間を騒がせている信託型ストックオプション、日経新聞の一面トップ記事にもなり、ネット上にも解説が溢れています。
それらの記事を読んで、なぜ「新株予約権を行使した時に課税される」(元々そうなっている)と国税庁は言っているのか、明確に理解できる人は少ないのではないかと思います。
また、信託型ストックオプションを販売していた業者は、なぜ、「取得した株式を売却するまで課税されない。課税されるとしても給与所得ではなく譲渡所得」と勘違いしていたのか、これもすんなり理解できる記事が見当たりません。
なぜこんなことになってしまうのか
?
その原因は、信託型ストックオプションは、単に「有償ストックオプションだから株式売却時まで課税されない」という理論に立脚している商品だからなのです。
税制適格ストックオプションとか非適格ストックオプションという問題ではないのです。
税務上の論点
所得税法36条と施行令84条3項
所得税法 第36条
要は、「報酬や給与をお金でなくて、新株予約権という有価証券でもらった場合は、新株予約権の経済的利益で課税しますよ」と規定しているのです。
課税時期は2項に規定があります。
所得税法 第36条2項
新株予約権そのものは、権利行使の期間制限(一定の期間は行使できない)があり、かつ、時価が権利行使価格を上回らないと失効してしまう(行使したら損をする)権利なので、新株予約権を貰うか、買うかした時に経済的利益が実現したとはみません。
ではいつ利益が実現したとみて課税するかといえば(課税適状)、新株予約権を行使して、株式を取得した時なのです(当該利益を享受する時)。
新株予約権を行使して株式を取得したら給与
役員や従業員が新株予約権を行使した場合
会社が役員や従業員に新株予約権を与えるのは、役員や従業員の労務の対価としてです。一生懸命働いてくれたら、会社の株の価値が上がるから、会社の株を安く買える権利を今のうちに与えておくね、という発想です。
そうすると無償で与えても、有償で与えても、労務の対価という性質に変わりはないことになります。
ならば、給与である。
これに対し、新株予約権は有価証券であり、時価で役員や従業員が取得したならば、新株予約権を行使して、株券を取得しても有価証券が形を変えただけなので、含み益は実現しないという考え方があるのです。信託型ストックオプションを販売している業者はこの理論を採用しているようです。
この点について所得税法はハッキリした規定(とても読みにくい規定ですが)を置いています。
それが所得税法施行令84条3項2号なのです。
所得税法施行令84条3項
所得税法施行令84条3項2号
もう、読みたくない!と思った人が多い(ほとんど)だと思いますが(読み飛ばした方も少なくないでしょう。)、
下の方(二号)は、次の括弧書きの「又は」以降がポイントです。
当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。
前提となる3項本文は括弧書きを外すと「法第36条第2項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による」としているのです。
意訳すると、役員や従業員が役務提供の対価として得た新株予約権は、新株予約権を行使した時(株式を取得した時)に課税する。課税される経済的利益は、新株予約権を行使して取得した株式の価格(時価)から①新株予約権を取得した時に払った金額(無償ならこれはなし)と②新株予約権を行使して、株式を取得する時に払う金額の合計を引いた額だと規定しているのです。
お金を払って新株予約権を購入した場合であっても、ただで新株予約権をもらった場合であっても、役員や従業員として取得した新株予約権の経済的利益は、新株予約権を株式に変えた時だよと規定しているのです。
この規定を読めば、「有価証券である新株予約権が有価証券である株式に代わっただけだから、権利行使時(株式取得時)には課税されないはずだ」という理屈は明文で否定されていることがわかります。
上述した以外に、本件を理解するには、法人課税信託の仕組みやストックオプション税制の知識もある程度は、必要なのですが、長くなるので止めます。
それにつけても税法というものは、一読、難解、二読、難解、三、四がなくて五読、誤解。
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