そんなことにはなりません。その理由は?
令和3年度税制改正
税制調査会は、昨年末の会合で、本格的に資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について検討を始めるとしています(令和2年11月13日中里会長記者会見)。
ここでいう「中立的な税制」というのは、相続により取得した財産に、生前に行った贈与を長期間にわたり加算して相続税を課税しようとするものです。
これを受け、暦年贈与制度が廃止され相続時精算課税制度に一本化されると予測する向きも見受けられますが、税制調査会が参考にする米国、イギリス、ドイツ、フランスの税制を見ると、富裕層に不利になる税制改正が行われる可能性は高くありません。
相続開始前の贈与の遡及時期の制限はなく、過去すべての贈与が相続財産に加算され相続税が算出されますが、生涯累積控除は1,158万ドル(12億1,590万円:1ドル@105円)あり、年間課税件数は5,000件にすぎません(最高税率は40%、配偶者は免税)。税収は約2.2兆円。
個人間の贈与等については贈与時に課税されず、贈与後7年以内に贈与者が死亡すると経過年数に応じ、8~40%の税率で課税され相続税と合算されますが、加算される贈与額と相続財産額の合計から32.5万ポンド(4,680万円:1ポンド144円)の基礎控除があります(配偶者は免税)。税収は約0.7兆円。
相続開始前10年間に贈与された財産が相続財産に加算されますが10年間累積で配偶者は婚姻中における財産増加額の半分は非課税になるほか、50万ユーロ(6,350万円:1ユーロ127円)、子は40万ユーロの(5,080万円)の基礎控除(相続税と共通)があり、贈与税と相続税の標準的な最高税率は30%です。税収は0.7兆円。
相続開始前15年間に贈与された財産が相続財産に加算されますが配偶者の相続税は免税、子は10万ユーロ(1,270万円)の基礎控除があります。税収は1兆円。
総じて我が国(1億2,333万人)の相続税収は既に2.1兆円あります。
何の工夫もなく相続時精算課税制度に一本化すると、「資産移転の時期の選択に中立的な税制」にはなりますが、デフレに弱い相続時精算課税制度を利用する人は限られ、若年層への資産の移転が滞ってしまい、経済の停滞の原因になりかねません。
いたずらに不安がらず、税制調査会の検討を見守りましょう。