遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係
被相続人甲は、次の遺言を残して亡くなった。遺言執行者として指定されていた信託銀行は、相続人の同意のうえ遺言執行者に就任し、遺産である不動産の処分、信託の設定等を行った。相続税及び譲渡所得の課税関係はどうなるか。
- 遺産の全てである不動産と預貯金、有価証券等を遺言の目的とする。
- 遺言執行者は、遺産のうちの不動産及び有価証券を売却処分し、その売却代金と預金の合計額を基に次のとおり遺贈及び信託の設定を行う。
- 相続人2名に各5,000万円(合計1億円)を相続させる。
- 売却代金及び預金の合計額から、相続債務、遺言の執行に要する費用等を除いた残金で奨学金給付事業を行う公益信託を設定する。
なお、遺言に基づき設定される公益信託は、特定公益信託である(所令217の2①)。
(参考:国税庁質疑応答事例)
1 相続税
遺言に基づき特定公益信託を設定した場合、相続人が取得するのは特定公益信託の委託者としての権利である。委託者は法定残余財産帰属者であるので、相続税法上は特定委託者とされ、相続人は委託者としての権利を相続するものとされる。適正な対価を負担せずに信託の受益者及び特定委託者となる者がある場合には、遺言により信託の効力が生じたときにおいて、その受益者及び特定委託者がその信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされ相続税の課税対象となる(相法9の2)。受益者の定めのない信託である公益信託の委託者(その相続人その他の一般承継人を含む。)は、相続税法9条の2第5項に規定する特定委託者に該当するものとみなして、相続税法の規定を適用するとされている(相法附則24)。公益信託の委託者において相続が開始した場合には、附則24により特定委託者とみなされる相続人は公益信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされ、その権利は相続税の課税対象となる。
しかしながら、委託者の権利を相続した相続人は、特定公益信託が修了する場合に残余財産を取得することはできず、特定公益信託の特定委託者としての権利に係る財産的価値は無に等しい。
そこで、相続税法基本通達9の2-6では、特定公益信託の委託者の地位が移動した場合には、当該信託に関する権利の価額は零として取り扱うことを留意的に明らかにしている。
換価された遺産のうち、特定公益信託の信託財産とされた金額に相当する部分以外の価額について相続税の課税対象とすることとなる。
なお、その区分は、換価された遺産の価額(評価額)に、換価代金から換価費用を除いた金額のうちに占める特定公益信託に充てられた金額又は充てられなかった金額のそれぞれの割合を乗じて計算する。
2 譲渡所得
遺産の換価処分は遺言執行者において行われるが、この換価処分は遺言執行者の職務(民法1012)としてなされるものであり、また、遺言執行者は相続人の代理人とみなされる(民法1015)ので、遺産の換価処分に係る譲渡所得については、法定相続分に応じて各相続人が申告する必要がある。
【関係法令通達】
相続税法9条の2
相続税法附則24
相続税法基本通達9の2-6
所得税法施行令217条の2第1項
民法1012条、1015条
(注)「公益信託」とは、信託法258条1項に規定する受益者の定めなき信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものにして主務官庁の許可を受けた信託であり(公益信託に関する法律1条)、公益信託は主務官庁の監督に属している(同法3条)。
(参考文献:国税庁ホームページ)