個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るもの
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)。相続が開始すると遺産は相続人と包括受遺者の遺産共有状態となる。包括受遺者は、債務も承継し、遺産分割協議にも参加することとなる。包括遺贈の承認・放棄は、特定遺贈と異なり、相続放棄、承認及び限定承認と同じ手続きを行う。
しかし、次の五点で相続人と異なる。
- 遺留分権はない
- 代襲相続はない(民法994)
- 共同相続人が相続放棄したり、他の包括受遺者が遺贈を放棄しても、それにより相続分が増えるのは相続人だけであり、包括受遺者の持分は増えないとされている。
- 包括受遺者の持分は登記しないと第三者に対抗できない。
- 法人でも包括受遺者になれる。
包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同一の立場に立つので遺贈者(被相続人)が負っていた債務をも承継する。包括遺贈を受けた遺産よりも承継する債務が多ければ包括受遺者は自己の固有財産を持って弁済しなければならなくなる。このようなリスクを避けるためには、相続財産を限度として債務を清算し、マイナスが多い場合は承継せず、プラスならば相続するという限定相続の方法を選択することができる。包括受遺者を含む相続人全員が家庭裁判所に対し相続開始を知ってから三ヶ月以内に限定承認の申述をして受理されると、相続人・包括受遺者は相続によって得た財産の範囲においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続することになる(民法922)。一人でも反対する人がいると限定承認はできない。その場合他の相続人・包括受遺者は単純承認あるいは放棄を選択するしか方法はないが、相続人の中に放棄をした者がいる場合は、残りの相続人・包括受遺者全員で申述すれば限定承認ができる。相続人の中に生死不明の者がいる場合には、家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらい、財産管理人と共に限定承認を行う。申述受理後、債権者や受遺者に限定承認をしたことを公告しなければならない。限定承認をすると家庭裁判所は、相続人の中から相続財産管理人を選任する。相続財産管理人は相続財産の管理、債務の弁済に必要な一切の行為を行う。
所得税法は、限定承認に係る相続・包括遺贈があったときは、限定承認の申述の受理がなされた時点で、時価による譲渡があったものとみなし、(遺産のうち含み益がある資産があれば)譲渡所得課税の対象としている(所法59①1)。被相続人(包括遺贈者)が所有していた期間の資産の値上がり益を被相続人(包括遺贈者)の所得として課税し、発生する税金を他の一般債務と併せ、相続財産の範囲で精算するわけである。
この場合、納税義務者は被相続人となるから、債務を承継する包括受遺者及び相続人は、被相続人の所得税について準確定申告(所法125、所令263、所規49)を行い、所得税を納付しなければならない(通法25)。
限定承認した結果、債務を弁済してもプラスとなり、相続・遺贈により取得する財産が相続税の基礎控除を上回る場合には、包括受遺者及び相続人は相続税の申告義務を負う。
限定承認の申述の受理があった時点で土地等の含み益のある資産は時価で譲渡されたものとみなされるが、相続税の申告における財産の評価額は相続税評価額である(相法13①、14②、22)。みなし譲渡課税された時価、実務上は換価処分された価額が相続税評価額より高くても原則としてその価額で申告することはできない。準確定申告による所得税は被相続人(遺贈者)の負担すべき所得税であるから相続税の課税価格の計算上、債務控除をすることができる。
包括受遺者が死亡保険金や退職金等を取得した時は、包括受遺者は相続人ではないので、生命保険金や退職金等の非課税規定を適用することはできない(相法12①五)。
限定承認した被相続人の債務が相続財産(積極財産)を超える部分については、法律上の支払義務のある債務ではないから、債務控除をすることはできない。
包括受遺者及び相続人が複数ある場合の所得税の納税義務の承継については、民法900条から902条までの規定(法定相続分、代襲相続人の相続分、遺言による相続分の指定の規定)による相続分により按分して計算した額となる(通法5②)。遺言による相続分の指定には、包括遺贈の割合又は包括名義の死因贈与の割合が含まれるから、遺言により相続分の指定や包括遺贈があれば、その割合により相続人(包括受遺者を含む。)は納税義務を承継する(国基通5条関係9)。
限定承認による相続では、包括受遺者及び相続人は相続により取得した財産を限度として準確定申告による所得税などの国税を納税すれば足り、相続人固有の財産を持って納税する必要はない(通法5①、国基通5条関係8)。